棒の手を100倍楽しく見る方法
表棒と裏棒
棒の手に使われる武具はヒノキを素材に作られた六尺棒(単に棒と呼びます)と太刀と呼ばれる長さ90センチ程の木刀です。これらを使用する棒の手を基本棒(表棒)と言います。これに対して槍や刀を使用する棒の手を裏棒と言います。現在ではどちらも普通に鑑賞する事が出来ますが
百姓が武器を持つ事を許されていなかった江戸時代に、神社に奉納する時は表棒を行い、夜師匠の家に集まって稽古する時は槍や刀を使用して稽古していたと考えられます。つまり表に出せない棒の手は奥儀と言われ、各流派ごとに密かに夜な夜な伝承されて現在まで伝えられて来たと考えられます。そんな裏棒には表舞台に出れなかった江戸260年間の歴史の重みを感じずにはいられません。
相棒
棒の手を鑑賞していると、とても息の合った上手なペアを見かける事があります。彼等は小学生の時から相棒になり大人になっても相棒なのでお互いの間の取り方とかを熟知しており息もぴったり合うのです。大抵の場合は相棒のどちらかが転校や転勤などでこの地を離れたり、棒の手を辞めてしまったりして欠けている事が多いので、現在では子供の頃から二人とも揃っている相棒同士は非常に珍しいです。鑑賞の際に本物の相棒同士を探すのも楽しいかもしれません。
また、猿投祭りにおいては消防団の格好をした者や着物姿の者が棒の手を行っているのを見かけますが、彼等は棒の手を使う若い衆を卒業したOBであり、それぞれ祭りの進行に必要な仕事を持っていますので、合間を見つけて棒の手を行う為、それぞれの格好で棒の手を行うわけです。
親子対決
歳の離れた相棒同士で棒の手を行っていたらそれは間違いなく親子か爺孫のペアと思って下さい。棒の手は本来一子相伝です。親は師匠であり爺は師匠の師匠である訳ですから、これもまた息がぴったり合うはずです。また、孫は絶対に爺にはかないません、若い者には勢いや迫力はあっても、爺の技のキレを出すには何十年もの長きにわたり鍛練が必要です。棒の手は練習すればするほど上手になっていくものですから。
ナギナタと傘の妙技
薙刀という武器は本来相手の足を薙ぎ払う武器です。見当流にはこれを再現した棒の手の型が存在します。相手の足をなぎろうと何度も何度も薙刀を回して相手を追い詰めます。しかし相手も巧みにこれをかわし最後には薙刀側の懐深くに飛び込みトドメをさすをいうものです。薙刀に対する武器は傘です。
なぜ傘なのかを深く考えた事があります。それはつまり自分の武器よりも有利な武器を持つ相手と戦う場合は、相手が想像もしないような武器を持つべきだという考えではないでしょうか、相手の虚をつき、ひるんだすきに懐深くに侵入し一撃を加える。薙刀側は傘を持つ敵に戸惑うでしょう。どのように戦ったらいいか分からないはずです。突然目の前で傘をぱっと開かれたら、自分の戦い方のペースを乱される事は必定でしょう。
これも棒の手の一つの教えではないかと考えています。
刀の妙技
刀という武器は相手を撫で切る武器と思われがちですが、実際、戦国以前は突き刺す方が主であったと考えられます。鋼鉄の鎧を身につけた武者を切りつけたところで刀は刃こぼれをおこして使い物にならなくなります。ならば刀を低く構えて相手の垂の下か胴丸の下あたり、防具のない部分に向かって突き刺す方がより致命傷を与える事が出来ます。戦国以前の刀の反り具合が大きいのもこの為と考えられます。
鎌田流の基本棒でこの動きを見る事が出来ます。刀を又の間に構えて低い体勢から一気に上に突きあげる動き、これはまさに刀を相手の下腹部辺りに突き刺す動きと思われます。これは間違いなく棒の手が戦国期以前に作られた証しのようなものです。
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